本記事の対象:家計のインフレ感覚を数字で確かめたい個人、値付けやコスト管理に物価動向を反映させたい個人事業主・中小企業の方向けです。執筆時点:2026年5月7日時点。
はじめに ― なぜ今CPIを見るのか
2026年に入って、スーパーや外食での「値上げラッシュ」がやや落ち着いたと感じている方も多いかもしれません。実際、2026年3月の総合CPIは前年同月比+1.5%と、ピークだった2025年1月の+4.0%から大きく減速しました。
ただし、これは「インフレが終わった」ことを意味しません。ガソリンの暫定税率廃止や電気・ガス代の補助といった政策効果が数字を押し下げているだけで、食料品の値上げ(生鮮食品を除く食料 +5.2%)はまだ続いています。本記事では、過去3年(2023年4月〜2026年3月)の月次データで物価の山と谷を見ていきます。
用語の整理 ― 総合・コア・コアコアの違い
- 総合(Headline CPI):すべての品目を含む。生鮮野菜の天候要因やガソリン補助金の影響を直接受ける、もっとも「実感に近い」指標。
- 生鮮食品を除く総合(コアCPI):日銀が政策判断で重視する指標。天候による生鮮野菜のブレを除き、基調的な物価の動きを見る。
- 生鮮食品及びエネルギーを除く総合(コアコアCPI):エネルギー価格の短期的な揺れも除き、賃金や人件費を反映した「持続的なインフレ」の体温計。
グラフ:過去3年の月次推移
グラフからは、3つの局面が読み取れます。
局面① 2023年:3%台で高止まり
2023年は通年で総合+3.2%、コア+3.1%と、いずれも30年ぶりの高い伸びとなりました。円安と国際資源高、輸入小麦・食用油の値上げが、加工食品や外食に幅広く転嫁された時期です。コアコアは年央にかけて+4.3%まで上昇し、エネルギーを除いた基調インフレの強さを示しました。
家計の体験例:「いつも買っている食パンが、2年前は150円台だったのに、2023年末には200円を超えていた」――こうした感覚は、コアコアの+4%台と整合します。
局面② 2024年前半:いったん減速したが…
2024年に入ると、総合は2%台半ば、コアコアは2%台前半まで落ち着きました。電気・ガス料金の負担軽減策によるエネルギー寄与のマイナス化が数字を押し下げた効果が大きく、いわば「政策で作られた減速」でもあります。
しかし2024年秋以降、補助金の縮小・終了が反映され、12月には総合+3.6%へ再加速。翌2025年1月には+4.0%とこの3年間のピークに達しました。ここで多くの家計が「2回目の物価ショック」を実感したはずです。
局面③ 2025年〜2026年:米価とエネルギー、そして政策の綱引き
2025年は米類(うるち米など)が前年から大幅に上昇し、「生鮮食品を除く食料」が押し上げ要因になりました。2025年度(2025年4月〜2026年3月)の年度平均では、総合+2.6%、コア+2.7%、コアコア+3.0%と、コアコアがコアを上回る「賃金・サービス価格主導」の構図が定着しています。
一方、2026年初にはガソリン暫定税率の廃止と電気・ガス補助の継続でエネルギー寄与が一気にマイナスへ。2026年3月のエネルギー寄与度は▲0.45ポイント、ガソリン単独で前年比▲5.4%、電気代▲8.0%となり、総合を1%台まで押し下げました。ただしコアコアは+2.4%とまだ高く、サービス価格や食料品の上昇は続いています。
成功例:物価感応的に行動した家計
- 固定費の見直し:2024年中に通信料・電気プランを見直した家計は、2025年の再加速局面で月数千円のクッションを得られました。2026年3月の通信料(携帯電話)は前年比+11.1%と、補助打ち切りで大きく上昇しています。
- 米の備蓄・銘柄分散:米価上昇局面で複数銘柄を比較購入した家庭は、値上げの影響を半分程度に抑えられた事例があります。
失敗例:CPIを「ニュースの数字」として見ていた人
- 2024年の「インフレ落ち着き」を信じすぎたケース:補助金による見かけの減速を実勢と勘違いし、2025年初の再加速で家計の見直しが間に合わなかった例。
- 変動金利住宅ローンの放置:日銀のマイナス金利解除(2024年3月)後、段階的な利上げが進む局面で固定化を検討せず、利払いが増えてから動いた例。CPIと金利は連動して動くため、片方だけを見るのはリスクです。
これからの読み方 ― 3つのチェックポイント
- コアコアCPIを最重視する。総合は補助金や原油の影響でブレるため、「賃金・人件費が物価に乗っているか」を判断するにはコアコアが最も適している。
- 政策効果の剥落タイミングを意識する。ガソリン暫定税率廃止や電気・ガス補助は、いずれ前年比への影響が剥落し、1年後にはCPIの数字を逆方向に動かす。
- 食料品とサービスを分けて見る。食料品は外的要因(天候・為替)、サービスは賃金が主因。後者の上昇は持続的なインフレの本丸です。
まとめ
過去3年の日本のCPIは、2023年の高止まり → 2024年前半の見かけ減速 → 2024年末から2025年の再加速 → 2026年初の政策減速、という波形のあるインフレでした。数字の表面ではなく、コアコアと寄与度を見ることで、家計や事業の判断材料に変えることができます。
マイクロファンドでは、家計・事業の意思決定に役立つ経済データの読み解きを今後もお届けします。
参考文献
- 総務省統計局『2020年基準 消費者物価指数 全国 2026年(令和8年)3月分及び2025年度(令和7年度)平均』(2026年4月24日公表)
- 総務省統計局『2024年(令和6年)平均 消費者物価指数の動向』
- 総務省統計局『2023年(令和5年)平均 消費者物価指数の動向』
- 日本銀行『金融政策決定会合の経済・物価情勢の展望(展望レポート)』各号
- OECD『Consumer Prices』(月次インフレ統計)